酷暑、雷雨、地震──
どうやら今年の夏は、私たち人間に対してちょっぴりやさしくないようです。
自然が怒っているのかな? まぁ、それもわからなくもないけど……。
でも中には、暑さでヤル気が出ない、よく眠れない、食欲がないなんて方もいらっしゃるかと思います。 そんなときは身体を休めて気分転換をするのがイチバンですよ!
今回のWSはそんな癒やしが必要な方にも、いつも元気いっぱいだよという方にもオススメ!
心のバーニング(燃焼)にピッタリなWS!の開催報告です。
All Alive Project 埼玉/AAPS(通称アープス)がお贈りする〝応用演劇ワークショップ〟今年2月に開催した『演劇の可能性 〜知る・体験する・感じる〜』(講師 花崎 攝さん:演劇デザインギルド)に続く第2弾!
演劇の可能性シリーズvol.2【みんなでつながる 演劇のチカラ】
金沢市の団体「劇・遊び・表現活動 Ten seeds 」代表・黒田百合さんをお招きして、8月4日に開催しました。
笑顔が絶えない黒田さんのWS |
Ten seeds(テンシーズ:10つぶのタネ)代表。
ニックネームは「りりあん」。
金沢市を拠点とする劇団・夢宇人(むうにん)を主宰、
石川県の県立高校演劇科の元講師、日本演出家協会会員、金沢市民芸術劇場(K-CAT)メンバー。
「テンシーズ」は2001年に小中学校で表現教育が取り入れられたのを機に発足した応用演劇の実演者たちの団体。
現在では、幼児から高齢者・障害者まで、全国にまたがり応用演劇の実践と普及のための活動をしています。
実践的 応用演劇とは──
黒田さんにとっての演劇とは、コミュニケーション(対話)をおこない、イマジネーション(想像力)を働かせ、そしてシアター(表す)を創り、ドラマ(現れる)に注目することだとか。
テンシーズの応用演劇ワークショップでは、特にドラマ(そのときに現れてくるもの)に注目してWSをおこなうのだそうです。表現とは、誰もがもっているドラマ(現れる)を映画なり舞台なりで創造(表す)することと考えているそうです。
・応用演劇が現代社会に必要とされる理由──
①社会が少子化、核家族化し、文化・地域の特徴が失われつつあり、個人の孤立化が進んでいること。
②行き過ぎた競争社会のため、他者との繋がりよりも自己防衛・対立が目立ってきた。
③無意味、無価値な物事が排除され、自分や他人の気持ちを伝え合い、会話を楽しむ時間や能力の余裕がなくなりつつあること。
④自然体の自分を正直に表現する場がなくなりつつあること。
──などの現代社会に特有の問題に対処するためだそうです。
たしかに私たちの周囲でもタイパ(時間の効率活用)、コスパ(費用対効果)、リスパ(リスクマネージメント)などが重視されて、ちょっと不自由だなと思うこともしばしば。
これはもしかしすると、心の平和にとっては一大事?!早急に自分自身を救ってあげないと行けない状況だと思います。いえ、自分だけでなく、子どもたちや高齢者、身障者、そして地域でともに暮らしている人たちも同様です。
そんな社会の役に立ちたいと、AAPSは今回も応用演劇のWSを企画しました。
タイパもコスパも関係ない、他人に評価されることもない、自身の思いつきや世界観を披露して、集まった人たちと楽しくコミュニケーションをとりながら非日常の世界を一緒につくりませんか?
自分の思いを表現することが苦手な方、もっと広く深く周囲の人たちとコミュニケーションを取りたい方──
応用演劇に精通した黒田さんのWSを経験することで、誰もがコミュニケーション力をアップできるようになります。応用演劇WSがコミュ力アップのお手伝いをします。
参加者一人一人に語りかける、黒田さん |
実演家の黒田さんがとても重視している〝非日常〟の世界は、応用演劇のキモ。
とても重要な概念なんです。
たとえば、学校に通っている児童・生徒さんたちの〝日常〟は知識を教えてもらうこと。黒田さんはこの関係を、教師から生徒への「解説関係」と表現します。当然、できる子とできない子にわかれます。でも、そこに〝非日常〟というキーワードを差し込むと、想像の空間が生まれてきます。いつもの教室が虫取りをする森になったり、自分が虫に変身したりと、自由自在。
今まで気づかなかった友だちの違うところに気がついたり。
そこから表現が生まれ、友だちへの共感が生まれ、心が刺激を受けて感情が生じる。
そしてその楽しさをお互いに共有したくなる。
そのきっかけになるのが〝非日常〟なのです。
本日のプログラム『〜みんなでつながる〜演劇のチカラ』
それでは、演劇・応用演劇の実演家である黒田さんのWSを現場リポートします!
題して『みんなでつながる 演劇のチカラ』はじまり!!
県立高校で演劇教育を25〜26年やってきたという黒田先生。
実は、もう◯歳を過ぎているとか。お若い!
その話しぶりはものすごくエネルギッシュでパワフル。乳幼児から高齢者、障害のある方まで様々な場でWSを開催してきた経験と知識の裏付けがあってこそのこと。
「講義ではありませんよぉ」と繰り返しながら、いざ、スタート!
プログラム紹介
1、最初は「握手回し・拍手回し・拍手飛ばし」
握手回しのスタート |
とても単純なゲームですが、一体感が増していきます。
次に、目で合図(アイコンタクト)して「拍手飛ばし」
総勢28人、アイコンタクトをされても気がつかない人もいれば、自分が合図されたと勘違いする人もいて、失敗しても成功してもクスクス笑いや大笑いの渦。目力強い人、有利です。
プログラムを実践するときは「楽しもう!」を押し付けないで、一緒に楽しむことが大切です、と黒田さん。なるほど──。
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2、次は「トイレとんとん」
清掃中!全員が大騒ぎして移動! |
これもアイコンタクトの遊び。
学校やショッピングモールの個室がたくさん並んだトイレをイメージ。その扉をオニがコンコン・・・
しっかりとアイコンタクトを取れるかどうかがカギ。
それだけのゲームだが、童心に戻ったかのように参加者の笑い声が上がり、部屋がひっくり返るほどの大騒ぎ。
サイコーに盛り上がるのが「清掃中!」という掛け声。全員が一斉に個室を交換するのだ。こうなるともう大変!天井を突き破るかと思えるほどの笑い声が部屋にあふれる。
笑いとともに心の底から湧き上がる「楽しいね!」という感情が周囲と共有される。論理ではない感情の共感が全員の胸に浸透していくよう。
楽しいという感情で参加者同士が関わるから、成功しても失敗しても思いっきり笑える。みんなで一緒に楽しんでいるという安心感が心を開放してくれるのだろう。
3、「ハイタッチ」という2人組みでおこなうゲーム
みんなできてるかな?確認中 |
次に黒田さんが提案したのは、
ハイタッチ、ロータッチ、などなど、
それぞれ違う人と組んでおこなうゲーム。
「なんだ、簡単じゃない」と思う方もいるかも。ところが、これもまた盛り上がるのです。ワーワーキャーキャー、右に左に相手を探してウロウロ。
ドラえもんのポーズってどんなの?と思えば、タケコプターにつかまるポーズやジャイアンにボコボコにされる場面を再現したポーズ。
水戸黄門といえば「この紋所が目に入らぬかっ!」というあの有名な印籠のポーズ。
みんな、自分なりのポーズを決めて得意顔です。
黒田さんがいう「他人とのゆるやかな関係の中に生まれる喜び」に満ちた笑顔があちらこちらに。「このゲームは高齢者の認知症予防にもいい」と黒田さん。「自分の顔を認知してくれている人がいると実感することは、大変な喜びになるんです」。
4、「教科書を遊ぶ」──ゲームは双方向で
当時、教科書を毎晩読んでいた黒田さんは考えたそう。
そこで生まれたのが「教科書を遊ぶ」というゲーム。
本日は、「社会科」。テーマはスーパーマーケットでの買い物。
数人ずつのテームに分かれて、いざ実践!
とても個性的な家族(チーム)がそれぞれに決めた料理の材料を買うためにてんやわんやの大騒ぎとなりました。
寸劇というかコントというか、演じる方も観る方も真剣に、でもゆる〜く、想像力を巡らせ周囲と話し合う──とても楽しいひと時でした。
他に「算数」をテーマにしたゲームもあるとのこと。身の回りの物の長さを物差しを使わず、自分の体などで工夫して測るゲーム。これもやってみたい!
5、ひと休みしたあとは「俳句表現」のゲーム
ふたたび各チームに分かれて、夏をテーマにした俳句づくりに挑戦。
とはいえ、黒田さんのWSはただの俳句教室とは違う。
チームで俳句を創り、その状景を身体表現するのだ。しかも2カット。
ちなみに作品はこんな感じ──。
さあ? |
どれがどれ? |
・暑すぎて ゲームばっかり 夏休み
・観るよりも そっちに行きたい 夏休み
・高校生 いちばん最後の 夏休み
上手い俳句じゃなくていい、文学の才能なんてなくていい。
大切なのは、チームで創ること。
そしてその状景をみんなで身体を使って表現すること。
みんなでやれば恥ずかしくない!
いやー、楽しみました!
黒田さんのお話──応用演劇のこと、WSのこと
今年の正月、大地震に見舞われた石川県。復興まではまだまだ時間がかかりそうです。
石川県は黒田さんが拠点としている地域ですが、ここには「佛子園」という社会福祉法人があります。
佛子園の紹介DVDを見せていただきました
佛子園は石川県内だけでも13か所の拠点があるそうで、全国的に活動を展開している団体だそう。幼児から高齢者、障害者も区別なく「ごちゃまぜの取り組み」をモットーに、誰もが生きがいとやりがいをもてる地域づくりを目指している団体だそうです。
黒田さんは、この団体の一組織・エイブルベランダBeで毎週木曜日に「コミュニケーションワーク」と「ドラマワーク」のWSを担当しているとのこと。
他にも音楽、ヨガ、ダンス、書道、絵画など様々なアートのWSが開催されているそうです。
「佛子園」──これからの地域社会の枠組みや応用演劇を考える際に要チェックの団体です。
★佛子園ホームページのアドレス
https://bussien.com/index.html#/
応用演劇WS──キーワードはコミュニケーション力
学校での日本語教育は読み書きを中心におこなわれているため、話したり身体表現する機会が少なく、コミュニケーションが苦手という方が少なくありません。
そんな人でも、コミュニケーションWSに参加することで、思っていた以上に簡単に言葉や思いのキャッチボールができるようになると気づくのです。
たとえば、岐阜県内のある高校で、毎年約50人の退学者が出ていたのですが、コミュニケーションWSをすることで退学者が年間10人以下になったそうです。黒田さんが勤めていた高校でも、コミュニケーション力がある演劇科の生徒たちは就職率が学内でいちばんだそうです。コミュニケーション力がアップすれば情報の共有がスムーズにできるようになり、信頼関係の構築につながり、不登校児の減少、社会全体の生産性の向上にもつながっていくとのこと。出産後の母親の孤立、高齢者や外国人労働者の孤立などへの対応もでき、現代社会を生きていくには欠かせないWSです。
コミュニケーション力の大切さを説く黒田さんは、石川県内で高校生の就活力を育てるWS、自分を好きになるWS、自分の思いを話せるWSを10年間続けてきたそうです。
表現力、コミュニケーション力は生まれてから亡くなるまで必要な能力という黒田さんの考えには、私たちもしっかり同意いたします。
その他の黒田さんが参加してきたWS
年間100本以上もの応用演劇のWSを全国で担当している黒田さんに特色のあるWSを紹介していただきました。
・可児市文化創造財団の孤立化を防ぐWS──
「劇場は芸術の殿堂ではない。人間の家である」という考え方のもと、母親、高齢者、外国人労働者の孤立化を防ぐWSを開催。小学校へのアウトリーチも年間24回程度実施。
・彫刻が盛んな宇部市での「彫刻としゃべろうWS」──
これまでも彫刻にまつわる様々なイベントが開催されてきた山口県宇部市で、黒田さんはマンガの吹き出しのように彫刻にしゃべらせるWSを開催。
・七尾市での「人間関係エクササイズ」──
毎年4月に入学した新中学1年生にコミュニケーションのWSを開催。その後、高校、大学にも拡大。
・「演劇をつくることで学ぶ・演劇をもちいて学ぶWS」
黒田さんのお話を聞いて、応用演劇の手法を活用したWSには無限の可能性があるのあと実感しました。災害、いじめの問題、差別、無関心、さまざまな問題に応用演劇の手法を駆使して、少しでも心の安らぎを得られるように頑張りたいと感じます。
能登半島地震の経験
能登地震の写真:石川県ホームページより |
地震があったとき、黒田さんは実家で家族揃っての宴会が終わったところだったそう。家も劇団事務所も、すべての物が落ちたり倒れたりして大変な状態となったとのこと。
実は能登半島地震は、世界最大級の直下型の内陸型地震だそうです。黒田さんの近所でも、大きな家の石段が1メートルほども隆起するほどだったそう。割れたり傾いたりした地盤の修復ができるのは令和8年になるとか。被災者のうち、災害関連死は孤立してしまったことによる被害が多いようです。現在でも地元から遠く離れて避難所や関連施設で暮らす人は多くいます。
そんな状況の中、黒田さんは3月から5月まで、避難所に炊き出しにも行ったそう。高校の演劇コースの教え子から「炊き出しが月に1回もない。先生、助けて」と救援要請があったとのこと。その避難所では、食事が毎朝ランチパック、昼はおにぎり2個と悲惨な状況だったそうです。
また、金沢市民芸術村で避難者を対象にほっとひと息つける場をということで、コンサートや手作り教室などを開いているとのこと。
障害のある方々も県内に分散して避難したものの、環境の変化でパニックになる方や周囲の人たちに迷惑をかけると思われてしまう方もいて、壊れた施設にそのまま残らざるえない状況も。聴覚障害者への対応にも手話者が少ないなど問題があることがわかったものの、実は亡くなった方がいませんでした。それは、近所の方々が避難所へ連れていってくれたりと障害者が孤立化しない地域社会ができていた、というよい面も見られたのではないかと思いますとのことでした。
今回初めて聞いた言葉に「1、5次元避難」という言葉がありました。2次避難するための調整期間に過ごす避難所のことですが、石川県スポーツセンターのメインアリーナではテントがずらりと並び、サブアリーナでは高齢者の方々などが集められていたそうです。
和倉温泉もまだまだ開業できていません。やはり水が出ないことがきびしいようです。
復興への道
能登地震の写真:石川県ホームページより |
ボランティアの人数が、阪神・淡路大震災の20分の1以下だそうです。「被災地は本当に静かで、人がいません」という黒田さんの言葉に唖然としました。
被災地へのアクセスの問題、宿泊施設の受け入れ問題。
なによりもライフライン修復。解決すべきことは数多くあるのが現状です。
そんな状況下で、被災者の孤立化をどう防ぐか。特に集会所が設けられていない仮設住宅の問題が大きいのではと黒田さんは考えているそうです。
対策としては、いろいろな人が出入りできる場を作る必要があるでしょうとのことでした。
輪島の朝市は、現在、出張という形で再開しています。でも、焼け跡は未だに手つかずで復興はいつになるかわからないという状況です。
公費による家屋の解体も現在完了したのは5パーセントほどで、まだまだ先は長いといわざるをえません。
そんな中、黒田さんは被災者の孤立化は絶対に防ぎたいと、毎日走り回っています。6月には珠洲市、輪島市、能登町など奥能登の教育委員会をまわり「無料でWSを開きたい」と申し込んできました。でも、WSの会場は被災者でいっぱいのため、なかなか場所の手はずも整いません。
「孤立しない、孤立させない、つながりを構築する、
これが私のこれからのミッションだと思っています!」
黒田さんの思いのこもった発言でした。
写真・文章:さわ
ご参加くださった皆様、有難うございました!!(AAPS)